皆さん、こんにちは。新潟市で21年間、ボディケアグリーンズという整体サロン&パーソナルトレーニングジムを経営している整体師の森田です。
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筋力トレーニングの世界で、「背中のトレーニングの王様」と言えば、間違いなく懸垂(チンニング)が挙げられます。しかし、多くの方が懸垂を単なる「広背筋を鍛える筋力テスト」だと誤解しています。
実は、懸垂は「走る、投げる、しゃがむ」といった動きと同列に並べられる、人間にとって最も原始的かつ重要な「運動学習」の一つです。
なぜ、この「ぶら下がる」という動作が、私たちの体にとってそれほどまでに重要で、効率的な運動なのでしょうか?そして、なぜ多くの人が懸垂ができずに壁にぶつかってしまうのでしょうか?
今日は、懸垂という運動が持つ深い生理学的・運動学的意味と、その習得方法について、詳しくお話ししたいと思います。
1. 懸垂が体を進化させる「二つの原始的な力」
懸垂が体にとって特別に優れている理由は、単に筋肉を肥大させるだけでなく、「脳と体の接続品質」を劇的に向上させることにあります。
① 固有感覚の発達と空間把握能力の向上
懸垂は、私たちが生まれる前の「ぶら下がり」という原始的な動きを再現します。バーを握り、自分の体重を全身で感じ取ることで、以下の感覚が極限まで鍛えられます。
- 固有感覚の再教育: 握ってぶら下がることで、手のひらや、筋腱(ゴルジ腱など)の感覚受容器が強く刺激されます。固有感覚とは、自分の身体が今、どのような状態にあるのかを内的に知るための器官であり、この感覚が養われることで、体は初めて自分の体重をリアルに感じ、重力に抗うことを学習します。
- 空間把握能力の向上: 足が地面から浮いているという不安定な環境の変化は、脳や平衡感覚を司る前提(ぜんてい)に大きな刺激を与えます。これにより、自分が今空間の中でどのような角度で、バランスを取っているのかを把握する能力が高まります。
このような感覚の刺激や再教育こそが、体を強くし、次の成長のチャンスを生み出す基礎となります。
② 不安定性の中の安定:「CKC」の優位性
懸垂は、運動学的に「CKC」(Closed Kinetic Chain:クローズドキネティックチェーン)と呼ばれる運動タイプに分類されます。これは、末端(手)が固定され、体幹部が動く運動です。
- 対照的なOKC: 一方、ラットプルダウンはOKC(Open Kinetic Chain)で、体幹部が固定され、末端(バー)が動く運動です。
- 懸垂の難しさの理由: 懸垂では、非常に不安定な環境の中で、自分の力で体幹部を正しい状態に安定させ、力を発揮して上に上がっていかなければなりません。「不安定な環境の中で、正しい状態に体幹を保持し続ける」必要があるため、一般的にCKCである懸垂は、OKCであるラットプルダウンよりも難易度が高いとされています。
しかし、この難しさこそが、「実用的な体幹安定性」を養う上で不可欠です。日常生活で私たちは、常に体幹が不安定な状態で手足を使います。懸垂で培った、不安定な環境下での安定能力は、腰痛予防や姿勢強化に直結します。
2. 懸垂ができない人に共通する「学習不足」の壁
懸垂ができないのは、単に「筋力不足」だけではありません。ラットプルダウンなどで基礎筋力(広背筋など)はつけられても、懸垂という全く機序の違う運動連鎖の中で運動を構築していくための「運動学習」が不足しているのが主な原因です。
- 体幹安定化の難しさ: 末端が固定された状態で、体幹部を正しい状態に保持して安定させながら動かすというパターンを、脳がまだ習得できていないのです。
- 支点の確立: 動作の中で力を入れるべき「支点」(この場合、胸椎や肩関節周り)を作り、その支点が機能解剖学的に良い状態にあることが、まとまった動きを作り出す上で非常に重要です。ただ力任せに上がろうとすると、首が前に出てしまう(NGフォーム)など、支点が崩れてしまいます。
3. 懸垂をマスターする「3つの段階的アプローチ」
懸垂が1回もできない人ができるようになるためには、「基礎筋力の養成」と「懸垂特有の動作パターンの学習」の両方が必要です。
Step 1: 基礎筋力の養成(ラットプルダウン)
- 目的: 広背筋の使用、胸を張る力、握力といった基礎筋力を発達させる。
- 実践: ラットプルダウンを練習の軸とし、広背筋や大円筋に効かせる感覚を養います。
Step 2: 動作パターンの学習(アシスト環境を活用)
正しいフォームを学習するためには、アシストを活用し、「正しい姿勢」を体に覚え込ませるのが有効です。
- アシストチンニングマシン: 膝がサポートされることで、体幹部を安定させ、胸を作りやすい状態で引く練習ができます。この「胸を張った状態」を崩さないことが重要です。
- チューブアシスト: チューブを膝にかけてアシストする方法も、正しい体幹の姿勢を作った上で動作の練習をするのに役立ちます。
Step 3: 足つき懸垂(最も推奨される方法)
アシスト環境がない場合や、より実用的な感覚を養いたい場合に最も推奨されます。
- 実践: 鉄棒やスミスマシンなどで、バーを握ったときに足が地面につくぐらいの低い高さに設定します。バーを持ったら、まず胸を張り、常に足が地面についた状態で、体幹部を一定に保ちながら上下する動作を練習します。
- 目的: この練習の目的は、体幹部を安定させて握り、引くという動作を、正しい姿勢で学習することにあります。
ネガティブ練習(飛び上がってゆっくり下ろす)は、筋力がついてきた後の追い込みには有効ですが、初心者が正しいフォームを学習する意味ではあまり効果がありません。まずは正しい姿勢を維持したまま、動作全体を学習することが重要です。
まとめ:懸垂は「演奏」である
懸垂をマスターする過程は、複雑な楽器を演奏することを学ぶのに似ています。
ラットプルダウンで基礎的な筋力(音を出すための指の力)は養われますが、懸垂という曲(CKCという複雑な運動連鎖)を演奏するためには、まずアシストや足つき練習を通じて、体の軸とリズム(正しい体幹の安定性とフォーム)を崩さずに演奏する技術を体に染み込ませる必要があります。
ただ力任せに音を出そうとする(首を出して無理やり上がる)のではなく、正しい姿勢を維持し、筋肉を協調させて引くことが、綺麗な演奏(ボディメイク効果の高い懸垂)への近道となります。
あなたの体の「未開発の部分」を開花させ、最高の運動能力を手に入れるために、懸垂という究極の挑戦を始めてみませんか?
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整体師 森田 ボディケアグリーンズ 代表